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第一章 過去と現在が交差する8

Penulis: ひなの琴莉
last update Terakhir Diperbarui: 2025-01-09 16:16:37

家に戻ってテレビをつけると、大くんが司会をしているバラエティー番組がやっていた。いつもなら、すぐにチャンネルを変えるけど、今日はすごく大くんを思い出してそのまま見てしまった。

相変わらずカッコイイ。美しい滑舌で話していて聞きやすい声だ。

キラキラしている。

CMに入ると、大人気モデルの宇多寧々(うだねね)さんが可愛い笑顔で映っている。

大くんと熱愛報道が出た人だ。

あの時、私は心から大くんを愛していたけど、今は別世界の人。

ふたをしていた悲しくて苦しい気持ちがあふれてできそうになったので、テレビを消してソファーに横になる。

「ふぅ」

大くんは、はじめて家を訪れてから一週間後にふたたび来た。

たしか、手作りのお弁当を持参して。お母さんが作ってくれるような、カラフルなお弁当だった。

まだ会って二回目なのに顔を見た途端すごく安心したのを覚えている。

本当にはじめは男性ということを意識してなかった。大学時代にいつも心配して仲良くしてくれていた真里奈〈まりな〉には、大くんのことは話していなかった。

そうだ。真里奈に久しぶり電話をしてみようと電話を手に持った。番号を選んでコールを鳴らすとすぐ出てくれる。

『もしもし? 久しぶり!』

明るく元気な声だ。最近は、お互い仕事が忙しくて会えていない。

「元気だった?」

『うん! まあ、仕事は忙しいけどね。美羽はどう?』

「実は部署が変わっていろいろと大変なんだ。CMとか作る部署でさ……」

『すごいじゃない。かっこいい!』

イメージキャラクターに大くんを使うことになったとは、まだ外部に情報公開できないのでいうことができなかった。

「最近すごく昔のことを思い出すんだよね」

過去にあったすべてのことを唯一知っている友人だ。

『忘れるのはなかなか難しいよね。毎日のようにテレビにも出てるし。街を歩けば広告に使われていて記憶からなかったことにするっていうほうが難しいよね』

「うん……。私のことなんてもう忘れてしまってるのかな」

『忘れられるわけないじゃない。もし忘れていたら人として最低ね』

大くんのことを、最低なんて言わないで。

いまだに、大くんをかばってしまうのだ。

『近いうちに呑みに行こうよ』

「ありがとう」

久しぶりに真里奈の声を聞いて元気が出た。

大くんは、私を恨んでいるだろうか。憎んでいるだろうか。

今でも、私を思い出してくれることはあるのかな。

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